カルミナ・ブラーナ

orff,carl
2.音楽
オルフの第1の目的は、「総合劇」であった。<カルミナ・ブラーナ>でまず実現し、その後も発展させたこの総合劇は、音楽、言葉、身振りが一体となって、精神を鼓舞したり、想像力をかきたてたりして、圧倒的な効果を生むものである。オルンタツィオーネのようなイタリア・バロックの音楽劇という、2つの文化の伝統にモデルを求めており、これらが音楽・言葉・身振りの三者一体化を達成したものであることを考えればそれは当然のことともいえよう。ギリシア悲劇による作品は、ソフォクレスアイスキュロスの劇に基づいた3曲にとどまらない。書き下ろしの台本によるバイエルン劇である<ベルナウアーの女Die Ber-hauerin>にも古代悲劇の精神が見られる。同じく、バロックの特徴を示している作品は、モンテヴェルディの編曲のみではない。降誕劇と復活劇はすべて、黙示的な作品<時の終わりの悲劇De temporum fine comoedie>と同様、何らかの形でラップレゼンタツィオーネから着想を得ている。ギリシアとバロックの原典は、オルフの音楽劇に2つの重要な視座を与えている。すなわち悲劇のプロトタイプ、そして形而的思考を視覚的に具体化することである。さらに2点を付け加えておくと、オペラ<月 Der Mond>
のなかに最も明白に見られる怪奇幻想と、<カルミナ・ブラーナ>に顕著なしバレエや舞踏など身体表現をふんだんに取り入れる点である。通常、これら4つの要素は作品のなかに混在している。しかし、諸作品から明らかなように、オルフの主たる関心は、悲劇によって人間の性(さが)をさらしたり、超自然的真理を述べたてたりすることにはない。また、奇抜な空想や歓喜の表現でもない。彼の意図はスペクタクルを創造することにあると考えられる。

オルフのスペクタクルはすべて簡潔な表現をとっているため、その源泉の多様さにもかかわらず、作品からは一貫した傾向を見出すことができる。例えば、<カルミナ・ブラーナ>は中世ラテン叙情詩の連作によせて作曲家されており、バイエルン劇は方言による農民劇である。また、<アンティゴネ Antigonae>と<オイディプス王Oedipus der Tyrann>はソフォクレスのヘルダーソン訳に従っており、降誕劇や復活劇は創作神秘劇である。また、<真夏の夜の夢Ein Sommernachts-traum>はシェイクスピアのドイツ語版を使っている。そして、これらすべてに共通の音楽的効果が用いられている。すなわち、言葉と音楽を最も直接的な印象を与えるように構成している点である。この技法を<カルミナ・ブラーナ>において見出して以来、オルフは同じ手法を使い続けている。ただし、後期の作品では音楽的な内容が減じ、形而上的な主張が増している。

オルフの音楽劇の様式は、すでに、述べたように広範囲にわたる複数の源泉によっているが、ストラヴィーンスキィの<オイディプス王Oedipusrex>(悲劇の聖なる表現という点で)と、特に<結婚Svadebka>から直接に多大な役割を持たせている。オーケストラは、しばしば打楽器を多用し、鋭いアクセントを伴った合唱のリズムをさらに強調するために、ブロック和声として使われることが多い。とりわけて共通して用いられている手法は、ペダル・ポイントとオスティナートの単純な用法である。対位法、何小節にもわたって旋律を歌わせる音法、主題展開の技法はほとんど使われていないが、最も基本的な技法を用いることで、<カルミナ・ブラーナ>に見られる野生的奔放さ、宗教的・哲学的作品に見られる神秘性などの効果を上げている。<カルミナ・ブラーナ>の場合は、オルフのテクニックによって力強い異教的官能性と身体的興奮をもたらす音楽が生まれたことは明らかで、このため、合唱カンタータ作品としても人気を得ている。しかし、<結婚>と比較すると、オラフの作品はこの自分の手本を俗化したものであることが明らかである。

ほとんどの作品で同様の方法をとることによって、オルフは20世紀音楽の多くが出会う困難を、回避してきた。たとえば、彼の和声は極めて明快なため、彼の和声的思考を理解することは容易である。作品は推進力のあるリズムによってのみ進行する。聴衆はオルフの作品に身体的に反応できる音楽を見出してきた。オルフの成功はバーバリズムのかのうせと、その限界を証明したことにあった。

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