ベートーヴェンの演奏の正統性とは?

正統と異端のせめぎ合いを

繰り返す西洋






この「正統性」という語は実に

やっかいである。

正統の反対語は異端であるが、

西洋の歴史においては、

宗教界だけではなく無数の局面で

つねに正統と異端のせめぎ合いが

繰り返され、覇者は「正統」という

大義を標榜し、

つねに政治と表裏一体であった。





ベートーヴェンという人物の

イメージと、

ドイツ的なものという概念、

「正統」という理念は19世紀以来、

今日までのドイツ史において

特別な意味を有してきた。

19世紀後半のドイツで繰り広げられた

ブラームス・ハンスリック派と

ワーグナー派との大論争で

課題となったのは、

ドイツ音楽は本来どのように

あるべきかという命題であった。





そして、彼らが共通に

その後ろ盾としたのはベートーヴェン

であった。

指揮者の



礼賛した歌は、ベートーヴェン

交響曲第3番「英雄」の主題を用いて、

それにドイツ国家主義を賛美した

歌詞を付けた替え歌で、

まさにドイツの政治が背景に

なっていた。





文 西原 稔 ◎桐朋学園大教授
text by Minoru Nishihara



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